luster ―光彩―





真澄は川辺の小道を歩いていた。
辺りは仄暗く、日がさしている様子も月が出ている様子も無い。
川面は遠く、光を反射するでもなく、黒く緩く流れていた。
ぬかるんだその足元を踏みしめると、湿った土と屑葉のにおいが染み込むかのように付き纏う。



先程から、誰かの声が、ひたすらに自分の名を呼んでいる。
何故ここに居るのかも分からず、何処に行くつもりも無かったから、真澄はその声のもとへと歩き
だした。
木々がたおやかな風に揺れ、さわさわと騒ぐ。川のせせらぎの音に声が聞こえずらくなる。
耳を澄ませて、声を捉えようと立ち止まる。
水音を含んだような僅かな足音も、かそけき声を頼る今は煩わしい。
だが立ち止まった途端に、その泥濘に足が埋まっていくような奇妙な感覚に捉われる。
捉まりはしない。引き入れようとする泥を蹴り付ける様にして、力を込めて足を抜き出す。
導かれるように声のもとへとただひたすらに歩き続ける。


やがて泥の小道からはずれ、草の生い茂る向うに緩やかに流れる川に近付く。
真澄はそこに、人影を見出す。
「君は…」
人影は彼の名前を呼ぶ。
ああ、ずっと呼んでいたのは君か――

真澄は歩みを速め、川を包むかのように茂るその草むらを、ざくざくとかき分けるようにして進む。
近付く程に、光を纏ってほのかに浮き立つようなその姿。
彼を手招きしている。だが、それが誰かは分からない。

招かれてその人が指差した先に、何か平たく大きな影が見えた。
覗き込むと、川縁の、足元で生い茂った背の低い草影に、小さな船が見える。
指し示していたその指で、そのまま流れるような動きでそっと小船の先に触れると、船は川面に
すんなりと押し出された。
そのまま流れにまかせていくのかと思いきや、船は水面に意思があるかのようにそこに留まった。

「乗りましょう?」
鮮明な声が響く。ぼんやりとしていたその姿が、はっきりとした輪郭を形どる。

「マヤ…」
ふわりと輝くような笑みで真澄を見つめる。
「見つけてくれてありがとう」
「ああ」
「ずっと、速水さんを待ってたの」
「ああ、知っている。俺も君をずっと探していたんだ」

微笑み合い溶け合うように自然に手をかさねる。
身を寄せ、お互いの髪を揺らしてそっと船底に足をのばす。
二人が乗るための小船。
川の流れに沿ってゆっくりと滑る様に動き出す。
行方に何があるかはわからない。
船べりを遮る川の藻草も、倒れて行方を閉ざす木々の枝も何もかも薙いで行ける気がした。
「ずっと、二人で居られたらいいね」
マヤが呟く。
その言葉に逆らうかのように、次第と真澄の周りが霧の様な乳白色に包まれていく。
そこから目覚めるまでに真澄は強く彼女の手を握り、願うように囁く。


――ああ、ずっと共にいこう。

どんな困難が待ち構えていようとも君を離しはしない――

 


<Fin>



まめるく様コメント

ど、どこいっちゃうんでしょうね?っていう感じですが…
くるみんさんのニコマヤの、輝かんばかりの微笑みからイメージしてかいてみました。
ハヤク人生の小船に同舟しておくれ!と願いを込めて妄想。
かわゆいマヤちゃんのお礼に…ならないかも…すみませんです…こそっとこそっと退場。
(振り返り)あ、泥はシオリーという事で…(滝汗)
なにはともあれ、1周年、本当におめでとうございます!




管理人コメント

速水さんとマヤ、二人で手を繋いでいくならどこでもいいですわvv

……ということで、こちらはサイト一周年のときにまめるくさんから頂いた小説です。
速攻で頂いたにも係わらずお披露目が遅くなってしまい、申し訳ありませんでしたっ!
PCのデータが飛んだり、体調崩したりとイロイロとありまして……それにしたって三ヵ月後っ(滝汗) 「いつでもいいですよ」と温かい目で見守ってくれたまめるくさんは、まるで紫の石の人のようです
わvv(バラにあらず。分かる人だけ分かってください)  ああ、大魔王化しなくて良かった……

メールをお送りした際におまけでつけた、にこにこチビマヤを元に書いてくださったのですが、まさか その時には小説を頂けるとは思いもよらず、いいのかしらと慌てふためきました!
速水さんと共に読者も夢の中に迷い込んだような幻想的な世界が素敵ですvv
「泥」はかなりしつこく粘りつきそうですが、彼には是非、思いっきり足を抜き出して欲しいものです ねっ。もうズボッと両足を、イキオイよく!!

まめるくさん、叙情的な作品をありがとうございました。これからもよろしくお願いいたしますv