A Rainy Day  



「速水さん、やっぱり来ない・・・」

窓の外を伝う無数の雨粒を見つめながら、あたしは大きなため息をついた。
じっとりと室内に重く立ち込める空気は鬱々とした気持ちに拍車をかける。くしゃくしゃと髪の毛をかき 混ぜて、あたしは窓際にぺたりと座り込んだ。
あの人が見たら、みっともないとか女優がだらしない格好をするなとかお小言をもらいそうな姿だけど 今はそんなことを気にする必要もない。

今みたいに楽ちんなインナー着のままでお菓子を口いっぱい頬張っていても、お風呂の中に台本を持 ち込んでうたたねしていても、深夜までエンドレスに続く映画チャンネルに夢中になっていても。
何にも気にしなくていい。
でも・・・どこか寂しい。
一人でいる気楽さよりも二人でいる楽しさを覚えてしまった我が身が哀しい。

先週は彼と海を見に行く約束をしていた。
早起きして作ったお弁当は卵にハムとチーズ、ツナとレタスのサンドイッチにオニオンスープ。
料理下手なあたしにしては珍しく成功の域に達した作品だ。
思えば初めてのデートの時に作ったお弁当は、もう最低最悪の出来だった。それでも捨てるに捨てき れず持って行ったのだけれど、結局バッグの底に入れたまま速水さんに差し出すことができなかった。
だから一年前に果たすことのできなかった海辺でのピクニックを心密かに楽しみにしていたのだ。
彼をうんと驚かせて、そしてもっともっと喜ばせてあげたい。
ああ、それなのに・・・突然の雨に行き先を阻まれ、二人の間にも不穏な雲が立ち込め始めたのだ。

「もっと自覚を持たないか!君はこの大都の・・・日本を代表する大女優なんだぞ!」
「何よそれ!あたしはあたしなの!これからも変わったりなんかしないし変えるつもりもないわ!それ が気に入らないんだったらもう帰る!!」

帰り際につまらない痴話げんかして、雨の降る車外へ飛び出したのはつい五日前のこと。

一日目。
何の音沙汰もなし。

三日目。
早朝と深夜に短い着信音が鳴る。
―――まだ怒ってるのか?

―――いい加減に君も大人になって折れることを覚えたらどうだ?

それはこっちの台詞だ。
もちろんレスはしない。

そして五日目の今日。

「やっぱりまだ怒ってるのかな・・・」
そっと窓の外を見上げる。
夜に降る雨は心の奥深くにまで浸透し、静寂の調べを奏でる。
自分の存在が朧げに霞んでいくような切なくもの哀しい音。

あたし、やっぱり雨は嫌い。

そう思うと、重く沈んだ胸の内が何故だか吹っ切れる感じがした。
そしてクローゼットの奥からソーイングセットを引っ張り出すと、てるてる坊主を2つこしらえた。
大きな方には大好きで憎らしいあの人の顔
小さな方にはちょっぴり美化した自分の顔。
完成した2つのてるてる坊主を並んで軒下につるした。もちろんぴったりと寄り添わせることを忘れず に。
2つのてるてる坊主はどこか嬉しそうに夜風に吹かれてゆらゆらぶつかり合いながら揺れている。






(明日は・・・晴れてくれるかな?)

―――・・・ン・・・・。

(晴れたら、明日もし晴れたなら・・・―――)

―――・・・ポー・・・ン。

(その時は、きっと仲直りできるよね・・・?)

―――ピン・・・ポー・・・ン。

ふいに鳴り響くドアチャイムの音に、はっと振り返った。

優しい予感が駆け巡る。
明日はきっと晴れる。
二つのてるてる坊主があたしの願いを叶えてくれる。

「・・・ちびちゃん、俺だ」

その次の言葉を待たずに彼の広い胸の中に飛び込んだのは、それからたった5秒後のこと・・・。





<Fin>




yuri様コメント

くるみんさんの作品は本当に私の心のオアシスですv
見ているだけ、読んでいるだけで心を癒され妄想をかきたててくれます(#^.^#)
この拙作は打ち続く渇水のせいか(おい)なかなか最後まで書き上げる事ができませんでしたが、
突然の大雨に背を押されるように完成しました。
あー・・・でも恥ずかしいよーーー!!
らぶらぶを書くのってやっぱりまだ慣れませんーー!(>_<)
まだまだ未熟者ですけど、これからも精一杯頑張りますp(^^)q
最後にここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
そして大好きなくるみんさん、こんな私ですがこれからもよろしくお願いしますね(^▽^)



管理人コメント 

つまらないケンカをしてしまったと後悔をしながらも素直になれないマヤちゃん。
気になってメールをするものの、送る言葉はいつもの憎まれ口の速水さん。
yuriさんの書かれる二人は苦笑いが出るほどに意地っ張りで、でもそれがとっても愛おしいのですv
速水さんとマヤと、両方をセットでギューーッと抱きしめたくなるほどに(≧▽≦)


yuriさんから梅雨に飾ったトップ絵を元にSSが浮かんだというお話を聞いて、喜び勇んでおねだりをし てしまったわけですが(ええ、いつものパターンです。毎度ご迷惑をおかけします、yuriさんv)、こういう 展開になるのかぁと楽しく読ませていただきました。
なにしろ私はこの絵を描きながら「明日は天気になるかな」程度のことしか考えてなかったので。

ケンカをしてしまった相手を思いながら眺める雨は切ないでしょうね。
それを打ち砕く「・・・ちびちゃん、俺だ」のセリフが最高に好きです!!


私の我侭をいつも快く受け入れてくださるyuriさん、大好きですーーvv
これからもいっぱいご面倒をおかけすると思いますが(オイ)、よろしくお願いします(≧▽≦)