涙〜Teardrop〜 前編






夏の朝は活気に満ちている。マヤはいつものように稽古場へ向かうためにアパートの階段をトントン と軽快なリズムで下りはじめた。一段下りる度に後ろに垂らしただけの長い髪が、さわさわとノース リーブからむき出しにされた細い肩をくすぐる。つややかな頬はくすみもなく、ふっくりとした小さな唇 は蕾のように閉じられていて愛らしい。最後の一段を、両足を揃えて勢いよくトンと降りると、開け放 たれたガラス張りの引き戸の玄関の前に立った。表を眺めると、真夏の陽射しが容赦なく輝いてい る。いったいこの太陽はどこまで熱く、眩しいのか?何もかもを明るみに出さずにはおかない傲慢さ で天空に君臨する光の王を、マヤは振り仰いだ。そこには青々とした空がすぐ目の前に広がってい た。真っ白な雲が広い空の海原に浮かび、もくもくと盛り上がった形はまるで巨人のお城を思わせ る。あの雲の上には不思議な冒険が待っている・・・。そんな風に考え付いた自分に、ふとマヤは苦 笑を漏らした。
“あたしったら、いつまでたっても子供なんだから。こんなことだから・・・”
 急に、つい昨夜も夕食を共にし、その後他愛ないやりとりで遅くまで時間を過ごした真澄との会話 を思い出したマヤは、そこまで呟いた声のない言葉をそっと飲み込んだ。その先は考えたくない。“こ んなことだから、いつまでたっても速水さんにちびちゃん、って言われるんだ”なんて。飲み込んだ心 の言葉は、まるで細かなトゲででも覆われているのか、マヤの胸を内側からチクチクと責めた。
 心に浮かぶ真澄の面影を振り払うようにクルリと体の向きを変えたマヤの視線を奪うもの。そこに はいつもの通りに郵便箱があり、だがいつもはないものがその存在を主張していたのだ。マヤの視 界に突き刺さるように入ってきた一輪の紫色のバラ。そのバラが、自分と麗が住む部屋の番号がふ られた郵便箱に差し込まれ、アパート同様、悲しいまでに頑固に時代の流れに逆らい古ぼけている その木製の箱の中で鮮やかに咲き誇っている。目を引くそのバラに引き寄せられるようにふらふらと マヤは近づいた。よく見るとそのバラの下には大き目の封筒が一通隠れている。先ほどまでの物思 いも忘れ、差込口からそのバラと封筒を、丁寧に引き出した。

 封筒を手に取る。滑らかな手触りの紙質は、それだけで上等な物である事をマヤに想像させた。 表には印刷された文字で「北島マヤ様」とだけ書かれており、裏を返してもそこには何も書かれては いない。
 どうしようかと迷った末に腕の時計を見る。一瞬の躊躇の後、マヤは今下りたばかりの階段を駆け 上り部屋へと取って返した。台所へと真っ直ぐに進み、ふせて干してある牛乳ビンに水を入れてたっ た一輪のバラを優しく挿すと、そっと小さなちゃぶ台の上に置いた。それから狭い室内を見渡し、小さ なハサミを探し出すと封筒と一緒にバッグに入れて再び部屋を出る。一刻も早く封を切って中を見た い気持ちなのだが、これ以上のんびりしていれば黒沼の稽古に遅れてしまう。稽古場についてから 読むつもりで階段を駆け下り、もどかしく靴を履くと、痛めつけようと待ち構えているかのような、強す ぎる陽射しの中へと恐れることなく駆け出していった。
 

 稽古場へと向かう電車には辛うじて間に合った。真夏の太陽は車窓を通してまで照りつけ、ジリジ リと車内の人々を焦がす。暑さを避けるためにつけられている冷房をもってしてもその暑さからは逃 れられず、まるで調理されているのかとの錯覚を覚える。そんな暑さの中、唐突にマヤはあの日を思 い返していた。何をきっかけに思い出したのかさえ定かではない。心の中の小さなドアが、電車の揺 れた衝撃で開いたとでも言うのか・・・。人はあまりにショックなことがあるとそれを何度も思い返すの だろうが、いつも何の前触れもなくやってくるそのショックの再現にマヤは少々げんなりしていた。心 の準備のできていない無防備な時を狙っているのか、突然現れては「あの日」へと誘う罠を仕掛け てくるその過去へと、逆らう術も知らず諦めにも似た気持ちのままでタイムスリップしていくマヤだっ た。
 
 あの試演の日、阿古夜の心を掴みきれないままに試演に臨んだ結果マヤは亜弓に破れてしまっ たのだ。そのショックは相当なものだった。どん底に突き落とされ、息をするのさえ忘れるほどの絶望 感が体をがんじがらめにする。だが一方でそんな自分を冷静に見つめるもう一人の自分がいた。よく よく考えれば今の自分は精神状態も演技も決して100%とは言えず、それに引き換えこれ以上は おそらくないであろうと思える亜弓の素晴らしい演技を見れば、客観的に審査する立場なら当然亜 弓を選ぶだろうと、その自分はマヤに諭していた。そうかも知れない。わずかに自分を取りもどしかけ たマヤは、再び激しいショックに翻弄されることになる。そのショックは先の衝撃を遥かに上回るほど 激しかった。亜弓は、正式に紅天女を継いだことを宣言し、その上で、とんでもないことを言ってのけ たのだから。あの、完璧としか言いようのない演技をこなした亜弓の目が実はまるで見えていなかっ たと言うのだ。亜弓が、そのことを誰一人悟られることなく見事に演じきったことは、マヤをはじめそ の場の人々全てに恐れにも似た感情を抱かせた。だがその衝撃が収まらぬうちに亜弓の口からは それよりも更に驚くべき内容の言葉が発せられたのだ。目が見えないことを理由に、何年もの年月を かけ、血を吐くような思いで掴み取った紅天女を辞退するというのだ。一体誰が素直にそんな話を信 じるというのか。俄かには信じられないその言葉に会場内は大きくどよめき、その後はただならぬざ わめきに覆われた。それはまるで地を揺らす地鳴りのようにすら聞こえるほどだった。
 その時、誰かが「では紅天女は永遠に封印されるのか」と声を上げた。亜弓の話のあまりの衝撃 に誰もそのことに気づかなかったのだ。だが確かに、それでは「紅天女」はどうなるのか。亜弓は一 体どうするつもりなのか。人々はその心の動揺のままにざわざわと再びざわめきだした。その時、亜 弓は場内に向かって満開の、大輪の花のような美しい笑顔でにっこりと微笑むと言い放ったのだ。こ れより1年間、自分は目の治療に勤しむこと、そしてマヤにこの1年の猶予を与え、女優として研鑽 を積み、演技をより洗練させ、1年後の今日再び、今度は正式に「紅天女」の演出家として選ばれた 黒沼はじめ、他の俳優達と共に紅天女の試演に挑むこと、その演技に亜弓が納得すれば、マヤに 紅天女を譲ると言うことを。目が見えずとも耳は聞こえ、空気の流れでどのように動いているかもわ かるのだと言う亜弓に、誰も、月影さえも異存を述べることはなかった。それどころか、視覚に囚われ ないだけ、亜弓は厳しい審査をするようになるだろう。もしマヤが亜弓の納得の行く演技をできなけ ればもう二度とマヤの手に紅天女を掴むチャンスは来ないであろうし、その1年を過ぎれば紅天女を 永遠に封印するも、自分の手で才能ある若者を選んで指導し育てることも、亜弓の手に委ねられて しまうのだ。それでも挑戦するのか、とマヤに尋ねた。
 一度は諦めた紅天女へのチャンスが思いがけない形で戻ってきたのだ。それは確かにマヤにとっ ては大きな幸運だった。だが一方、亜弓にとってはこの上ない不幸でしかないだろう。どれほどの思 いで亜弓はこの決断をしたのかと、その表情から心の奥を探ろうとするかのように彼女を見ると、そ こには神々しいまでの美しさで決然と顔を上げて立っている亜弓の姿があった。その姿に、マヤは心 を鷲掴みにされた。それは今までに感じたことのない強い感動だった。あぁ、こんなにも美しく強い人 が、たった一人、自分だけをライバルと認めていてくれるのだ。亜弓の不幸が自分にとっての幸運に なるのだと言う厳しい現実を突きつけられた今、その姿を見ることで、初めてそのことの本当の意味 に気がついたように思えた。負けたくない、負けられない。この人の、人生の全てを賭けての挑戦 を、自分は真っ向から受けて立とう。いや、立たねばならないのだ。彼女に挑戦されるのも、受けて 立てるのも自分しかいない。マヤは体の中に大きな決意が、まるで溶岩のように熱くたぎるのをはっ きりと感じた。そして、亜弓に負けまいとするかのように頭を上げると、月影と亜弓の二人を見つめて キッパリと「はい」と答えた。

 大きすぎる衝撃、激しすぎる精神の高揚を飲み込むこともできず、翻弄されたままマヤは疲れ切っ てアパートに帰り着いた。誰もいないはずの部屋では、届けられた大きな紫色のバラの花束がマヤ の帰りを静かに待ってくれていた。それはあの絶縁状以来の花束であり、飛びつくように抱きかかえ ると中から一枚のメッセージカードがこぼれ落ちた。慌てて拾い、開いて読む。
「試演の結果は残念でした。あなたにはまだ私が必要なのですね。これからも見守っていきます。    ―あなたのファンより―」
 カードの中に書かれていた短い言葉。しかしマヤはその文字を何度も何度も指でなぞり、噛みしめ るように心の中で繰り返し読んだ。気がつけば心の中の声は真澄の声になっている。切れてはいな かった。あの人とあたしの絆はまだ、切られてはいなかったのだ。まるで羽が生えてうっかりすると 飛んでいってしまう物のように、カードを胸にきつく抱き締め、涙を流すマヤ。頭の中で聞こえる真澄 の声は一点の曇りもなく優しく澄んでいる。“あなたにはまだ私が必要なのですね”。そうです、私に はあなたが必要なんです。あぁ、この想いが届けばいいのに・・・。

 あれから半年以上が経っている。1年近くと言ってもいいだろう。政財界の大物を集め、盛大な婚 約の披露も済ませて結婚は秒読みと思われた真澄と紫織は、だがまだ結婚はしていなかった。鷹 宮との業務の提携が上手くいっていないのだとか、企業の合併に絡んで双方歩み寄りに時間がか かっているのだとか、何をしでかしたのか真澄が鷹宮翁の逆鱗に触れたのだとか、それが原因か紫 織がノイローゼになってしまい、その回復を待っているのだとか、様々な憶測が人々の間を飛び交っ ていた。マヤの耳にも面白おかしく脚色されたそれらの噂が遠慮なく入ってくる。人の口の端を飛び 交うそれらの噂が一体何を意味するのかが全くわからずに心配になったマヤは一度、精一杯のさり げなさを装って水城から真相を聞き出そうとしたことがあった。だが水城は、噂は何の根拠もないで たらめであり、ただ単に真澄が社運をかけた「紅天女」の後継者がはっきりしないうちは結婚できな いと考えているからだと教えてくれたのだった。その理由になんとなくの違和感を感じたものの、水 城がそう言うのだから疑う理由もない。それに期限付きではあるものの、真澄がまだ結婚しないとい うことでホッとしてしまう自分を、浅ましいとは思いつつも認めないわけにはいかないマヤだった。
 一方真澄は、亜弓が紅天女を演じられない以上、今のところ唯一の後継者候補であるマヤを丁重 に扱うようになっていた。もう、紫のバラの花束を投げつけるような真似もしないし、冷たい態度も取ら なくなっていた。相変わらず会えばケンカのように言い合うこともあるが、それらはどちらかと言うと痴 話げんかのような雰囲気さえあると、マヤは密かに思っていた。真澄も「未来の紅天女」などとマヤを 呼び、栄養をつけろと食事に誘ったり勉強になるからと舞台に連れて行ってくれたり、またその後に は彼の車でちょっとしたドライブに、成り行きでではあるが行くことも度々あった。それらはまるで夢の ようだと、デートのようだと、マヤの気持ちを高く高くへと舞い上がらせるのに充分であり、その気持 ちがマヤの「阿古夜」を素晴らしく充実させてもくれていた。
 だが。どんなに幸せな時間を過ごそうともそれはあくまでもマヤが紅天女の唯一人の後継者候補 であるからに過ぎず、もしマヤがただの「北島マヤ」であったなら、何の取り柄もないつまらない女の ままであったなら、こんなことは決してないのだと言うことは充分に承知していた。もう間もなく行わ れる試演で自分が亜弓の期待に沿える演技ができようとできまいと、真澄にとっては一応の決着が つく事になるだろう。その時こそ、真澄と紫織の結婚式が行われるのだ。そして、そうなってしまえば たとえ紅天女を手に入れたとしても今までのような時間はもう二度と持てないのだと思う。手に入れ たいと望むものの大きさと、失うとわかっているものの大きさと。だが今のマヤには前に向かって進 む以外の道はもう、残されてはいないのだ。


「よぅし、1時間の休憩だ。みんなしっかり飯食って来いよ!!」
 パワフルな黒沼の、野太い大声がスタジオ内に響きわたる。それは粗野ではあるものの、ハード な稽古に耐えている俳優たちにとってはまるで、慈雨が干からびた大地を叩く響きにも似て美しくさ え聞こえた。渇望していたものはただ一時の休息だけなのだから。
 ようやくの開放から歓声を上げる人々の中をそっと抜け、バッグを掴むとマヤは人の滅多に来ない 道具置き場の中に入り込んだ。ドアをパタンと閉めると手近なケースの上に腰掛け、もどかしい手つ きでバッグの中からはさみと封筒を取り出す。あの場で開ければ読むことを止められないだろうし、 読んでしまえば己の思考に囚われきっと稽古に遅刻してしまうと思ったので、こうしてこの場所まで 持って来ていたのだ。
 ハサミを使って注意深く封を切る。それからハサミをバッグにしまい、恐る恐る中に手を挿し入れる と、たたまれた2枚の紙と封筒の中の更なる封筒を取り出した。それらを丁寧にひざの上に置き、ま ずは一枚目を開いてみる。
 大き目の封筒と同じ上質の紙にいつもながらのブルーを帯びた黒いインクの万年筆で書かれた美 しい文字。一文字一文字がマヤにはまるで宝石のように輝いて見える。これがあの人の文字・・・。 指先でその手蹟をなぞりながらマヤは読み始めた。
「余計なことと思いつつ、お母様の七回忌の法要の準備を整えました。何のご心配も要りません。全 て万端ですので、あなたは施主としてご出席下さるだけで結構です。どうか、ご出席下さい。
             あなたのファンより

追伸:勝手ながら案内状も準備し、発送します。リストと案内文を同封したので目を通してください」
 急いでもう一通の封筒を手に取る。それは薄紫の紙に、流水に菊の花の透かし模様が入れられた 和紙でできていた。糊付けなどの封印はされておらず、中には揃いの便箋と地図が入っている。手 紙の文面は印刷された文字で、マヤの母親の法要への出席を請う案内文だった。
「−故・北島春 七回忌法要のご案内

拝啓 盛夏の候、皆様におかれましては益々ご清勝のこととお喜び申し上げます。
さて
この度、母・北島春の七回忌の法要を行う運びと相成りました。
つきましてはお世話になりました方々をお招きし、心ばかりの供養をしたいと存知ます。
時節柄、皆様におかれましてはご多忙中のことと、誠に恐縮では御座いますが、何卒ご列席賜りま すよう、謹んでご案内申し上げます。

                 北島マヤ−」
 日時は2週間後の午前11時と書かれており、場所はマヤの母が眠る寺だった。
 もう一枚の紙、案内状を送付するリストにも目を通す。師である千草、劇団つきかげや一角獣、源 造、黒沼、水城、桜小路など、マヤのごく親しい人物の名前だけが書き連ねられたリストはしごく短 いもので、親戚は勿論、春自身の友人、知人と思しき人の名を見つけることはできなかった。どの人 も全てマヤに繋がる人だけだ。
 物心ついたときから母と二人きりだった。親戚は愚か祖父や祖母も知らない。いるという話も聞い たことがなかったし、なんとなく聞いてはいけないような気がして聞けずにいたまま母は亡くなったの で、自分に血縁者がいるのか、いるとしたらどこにいるのか、その住まうところは勿論名前すら知ら ない始末だった。そんなことすら自分は忘れていたのだ。なんだかとても薄情なような気がして後ろ めたい。だが、そのことに気づかせてくれた彼には感謝の気持ちでいっぱいだった。彼が母の死に 全く責任がないとは、これほどまでに彼を愛する自分に気がついてしまった今でも思ってはいない。 だが、彼への想いに気がつかなかった時とは、今は事情が違う。自分自身もいくらかは大人になっ たし、あの頃には見えていなかったものが、今確かに見えていることも知っていた。
 もう、あれは何年前のことだろう。7年?いや、8年も前だろうか。お芝居をしたい、との情熱は、母 に訴えても聞き入れてはもらえなかった。どうせわかってはもらえないだろう。最初から精一杯の説 得もせずに、自分の演劇への思いを引き出してくれた見知らぬおばさんの元へと、自分は走ってし まったのだ。それ以来、どんなに困難と思えることにも挑戦し、そして乗り越えていった。だが、自分 は一番大変な、そして一番大切なことから逃げ出したままなのではないか。自分という存在全てを 賭けてまで、母を説得するだけの気持ちが、覚悟が、情熱が、果たしてあの時の自分にはあったの だろうか。家を出ようと覚悟した自分に酔っていただけかも知れない。挙句、自分を探し当て、連れ 戻しに来た母を一人で追い返してしまった。たった一人の未成年の娘を、母が連れ戻しに来るのは 当然であるにもかかわらず・・・。
 その後、電話の一本、手紙の一通、葉書の一葉さえも母に送ることはなかった。こちらからの連絡 は一切絶ち、連絡先さえも告げずに転居してしまったのだ。そのくせ心のどこかで、母はいつでもあ の店にいる、と甘えていたのかもしれない。いつでもあの店にいて、帰りさえすれば、どんなに罵倒 されようとも最後には許して受け入れてくれると、無意識のうちに甘えていた自分を否定はできな い。その甘えが招いた不幸だったのではないだろうか。母を説得するだけの情熱を持たなかった自 分の弱さ。きっと母はわかってくれないだろう、と諦めてしまった自分の愚かさ。母は許してはくれな いだろう、と思い込んでいた自分の浅はかさ。母の愛を信じ切れなかった自分の幼稚さ。そんな自 分が招いた事態であり、彼がこの不幸に加担したのはごくわずかな部分でしかなかったのだと、今 なら思えるマヤだった。
 読み終えた手紙を全て元通り封筒にしまうと、じっくりと印刷された宛名を見る。彼の心遣いに胸 が締め付けられるようだった。そっとバッグに封筒をしまうと、マヤは道具置き場を後にした。残され た道具達が、後ろを振り返らずに出て行くマヤを黙って見送っていた。