酔っ払い顛末記〜後日談〜



どうにかしてほしいと思った。
全部、全部、チャラにしてほしいとも、マヤは思った。
時間を戻してほしい、あたしの告白もなかったことにしてほしい。
−−だって・・・
今日何回目だろうか?深い、深い溜息が出た。
速水さん・・・ずっと好きだった。
迷惑だとわかっていても、いつかは想いを告げてもみたいとも思っていた。
だけど、自分の記憶の預かり知らぬところで彼に愛を告げ、しかもキスまでしちゃったなんて。
まったく憶えていない、いいえ・・・そんなコトを自分がしちゃうなんて、信じられない。
いくら後悔しても、しきれないコトって世の中にはある。
真澄はどう考えているのか、聞くのも怖いが、それでも彼はあれから一心にマヤに愛情を注いでくれ る。
今まで鬱積されていたものが、一気に噴出したみたいに、ただひたすらにマヤに尽くしてくれる。
望むものを与えようとしてくれる。
−−それってあたしの望みじゃぁないのに・・・
またまた深い溜息がひとつ、あ〜あっ、溜息をつくと幸せが逃げていくって言うのにね。
「マヤちゃ〜ん、速水社長がお迎えに来ているわよ」
更衣室でたそがれていたマヤは、後ろから声を掛けられた。
−−えっ!!またなの?
どんな顔をしたのだろうか。ぎょっとした表情で振り向くマヤに、呼びに来てくれた彼女の表情までも が、合わせたようにビクつく。
慌てて取り繕うような笑顔を作ったが、根が正直なマヤはその笑顔にすら感情が表れていた。
「あ・・・ありがとう・・・くるみんちゃん」
どう見ても愛しい彼が迎えに来てくれた女の子の顔ではなかった。
「・・・どうしたの?マヤちゃん」
染み入るような優しい声で、彼女に言葉を掛ける里中くるみ、こと、くるみん。
彼女はマヤが通う稽古場の事務の女の子で、本来の仕事だけでなく雑務全般も引き受けてくれて いた。
その上、雰囲気が癒し系で、ついついグチをこぼしたり、相談事を持ちかける者も少なくなかった。
「速水社長に、会いたくないの?」
マヤはその一言に、ぶるんぶるんと首を振る。
「そんなことない・・・会いたいよ・・・」
「でも・・・」
くるみんはマヤの言葉を促すわけでもなく、彼女の隣に座り、ただマヤの肩をあやすように、とんとん とたたいてくれる。
まるで赤ん坊に戻ったようにマヤは目を閉じ、その優しいリズムに身を預けた。
「あたし・・・知ってるでしょ?カラオケに行って、速水さんに・・・その・・・」
「うん、うん・・・わかっているよ・・・」
穏やかなくるみんの声に促され、マヤは言葉を継ぐ。
「あたし、イヤなんだぁ、自分の責任だけど、言ったコト、やったコトを全然憶えてなくって。その上、速 水さんにいっぱい迷惑を掛けてしまって・・・」
「迷惑?」
「だって速水さん、婚約まで解消してしまって・・・あのトキのあたしの告白には、きっと自分の本当の 意志なんてなかっただろうし、あたしの余計な告白で・・・速水さん・・・」
知らず知らずに涙がこぼれる。
マヤの胸の中には、真澄への罪悪感が渦巻いていた。
「婚約解消で、今まで以上に忙しくなったのに、なんにも言わずに今日もこうして迎えに来てくれる。
あたし・・・どうしてあげたらいいのかわかんない。速水さんの役に立つコト、なんにも出来ない・・・」
「そんなことないよ、マヤちゃん」
とうとうしゃくりあげ泣き出すマヤに、くるみんは強く答えた。
「ここだけの話だけど・・・」
くるみんは唇に人差し指を立て、ないしょよ、と目で合図を送った。
「私も今まで速水社長を遠目でしか見たことなかったわ。いつも厳しい顔をして、近寄り難い雰囲気 で、いくらステキな男性でも彼のような人は苦手だった。でもね、この間マヤちゃんを待っている速水 社長を見かけたんだけど・・・」
くるみんはふふっと笑うと、イタズラっぽい顔付きになった。
「それはそれは百面相みたいな顔をしていたわ。稽古の終わる時間が待ち遠しいのか、そわそわし たり、また少し不安そうな顔をしたり、何を思い出したのか、にんまり笑ったり・・・」
マヤはそんな真澄を想像できず、ぽかんと口を開け、ただくるみんの話を聞いていた。
「・・・確かにマヤちゃんが心配するように、忙しさからか少し疲れた顔をしていたけど、それを差し引 いても幸せそうな表情をしていた・・・速水社長はマヤちゃんがどう思おうと、幸せなのよ」
「くるみんちゃん・・・」
「そうよ、速水社長は幸せなのよ。そして、きっとその幸せの源は、マヤちゃんなのね」
力強くくるみんに断言され、マヤは体から余計な力が抜けた気がした。
「さあ、マヤちゃん、速水社長がお待ちよ。涙を拭いて・・・そんな真っ赤な目をしていたら、それこそ 社長は心配しちゃうよ」
軽くウインクをし、くるみんはマヤの背中をドンと押す。
「速水さん、心配しちゃうかなぁ?」
またまた可愛い心遣いを見せるマヤに、くるみんは微笑む。
「その時はマヤちゃんが今、私に言ったことを正直に速水社長に話せばいいの。わだかまりや疑問 はその都度、解決していけばいいと私は思うわ。それがマヤちゃんの本当の望みじゃないの?」
−−あたしの本当の望み・・・
くるみんはじっとマヤの瞳を見つめていた。
見つめるその瞳からはマヤを勇気づけるエナジーがみなぎり、それがマヤの全身を満たしていく。
マヤはふっと笑みを浮かべると、背筋をピンと伸ばした。
そう、いつまでもウジウジしてるなんて、あたしらしくない!!
マヤは涙を拭くと、思い切り弾けた笑顔をくるみんに見せた。
それは女のくるみんですら、ドキッとさせられるほど魅力的なものだった。
−−これじゃぁ、速水社長もイチコロね
くるみんはロビーでマヤを待つ真澄の姿を思い浮かべ、また彼の目の前にマヤが現れた時のことを 想像し、つい口元がほころんでしまった。
当のマヤは、鼻歌まじりに着替えをはじめていた。
−−きっとこんなマヤちゃんだからこそ、速水社長だけじゃないわ、みんなが惹かれるのね。
そしてそんな自分もまたその中の一人だと、充分に自負しているくるみんは、にんまりと笑う。
−−速水社長!!頑張ってマヤちゃんを幸せにしてあげてね!!
足早に真澄の元に走っていくマヤの後姿に、くるみんは心の中で呟いた。




<Fin>



アイリーン様コメント

くるみんさんのサイト、リニューアルオープン(でいいのでしょうね?)
おめでとうございます!!
正真正銘、このお話はくるみんさんに捧げます。
拙いお話で、ホント失礼します。
あ〜っ、つまんないお話なんて言って怒んないでくださいね(滝汗)
ごめんなさい。作文レベルです。内容ないです。主旨ないです。
ただくるみんさんに、スポットを当てたかっただけなのですぅ。
以上です!!



管理人コメント

はい、リニューアルですv お祝いのお言葉、ありがとうございますっ(*>▽<*)

「酔っ払い顛末記」の続編を頂けると知り、あれから二人はどうなるのかしらと胸をわくわくさせて
待っておりました。届いたメールを開き、待望の小説を読み始めたのです。

(・・・・うんうん、マヤちゃん、やっぱり困ってるのね。速水さん強引だからなぁ)
マヤちゃ〜ん、速水社長がお迎えに来ているわよ』
(うわぁ、専用ドライバーまでやってるよ、社長。一体、仕事はどうしてるんだ!水城さん怒ってる ぞ!)
・・などと心の中で突っ込みまくっていたところ・・

『あ・・・ありがとう・・・くるみんちゃん』

・・・・・・・・・パタン・・・・・

ノートパソコンの前で赤面して突っ伏してしまいました。
びっくりして、本当に頭の中が一瞬真っ白でしたわ。
名前を使って頂いたことがありがたくも恥ずかしく・・それにしてもこんなに良い表現で書いて頂いて いいのか、私!?

そして動揺しながらも先へと読み進み・・・・

(うわぁ、マヤちゃんのお悩み相談してるよ。速水さんウォッチングまで!
しっかり表情チェック入れてるし・・それをマヤちゃんにバラしてるわぁ!
お、マヤちゃん復活!! やったぁぁ(*>▽<*) )

・・・私、このまま速水・マヤのストーカー・・もとい、見守る役目を続けても、それはそれで本望で
ございます。


小説を書いて頂きたいというこちらの図々しい依頼を快く引き受けて頂いた上に、サイトオープンに
まで間に合わせていただいて・・感謝の念に堪えません!!
本当に、忘れられない記念作をありがとうございました(〃^ ^〃)