心の寄り辺 8



泣いているのはマヤ。
泣かせているのは俺。

それは何年もの間続いた“完成された構図”

しかし、悲しみと苦痛で彩られてきたはずのそれは
鮮やかな明色へと変化を遂げた。



腕の中で泣き濡れるマヤの温もりが体中に浸透していく。
それは染み渡るにつれ高熱となり、
脳が侵されて心も身体も麻痺しそうだ。
この手の中にあるものがどれほど大事なものなのか、
今更ながらに思い知らされる。


マヤがいる。
逃げることなく、この俺の腕に。
その事実が信じられないほどに、震えるほどに嬉しい。

そして心の奥底から、尽きることを知らぬ泉の水のように
湧き上がってくるのものは・・・



「速水さん・・?」

マヤの疑問の声に我に返る。
どうやら無意識に笑みが漏れてしまったらしい。
ごまかす訳にもいかず、彼女の頬にそっと手を当てる。
柔らかい感触に少しばかり戸惑いながら。


「俺はずっと君を見つめてきた。
気が遠くなるほど長い間、ただ君だけを。
これ以上、人を愛することなど出来ないと思うほどに。
・・・だがそれは間違いだということに今、気づいたんだ」

マヤの瞳が見開かれ、その奥の感情が揺れた。
頬を伝っていた涙の最後のひと雫が、息を飲む彼女の喉元を流れ落ちていく。

「そう・・ですよね。
私なんかが速水さんに思われるわけが・・ないんです・・よね・・」

悲痛な面持ちで眉を寄せ、言葉を搾り出すマヤに俺は頭を振った。

「そういう意味ではないんだ。
持って回った言い方をするのは俺の悪い癖だな」

マヤの頬に残る幾つもの涙の跡を親指でなぞる。
もう俺のために泣かせることはしたくないと、心の内で決心をして。


「マヤ・・・この湧き上がる想いをどう表現したらいいのだろう。
俺の気持ちを受け入れてくれた君が愛おしくて仕方がないんだ。
今までの感情など、とてもじゃないが比較にならない・・・」


想う相手に想いを返される幸せ。
それがこれほどに感情の高揚を生じさせるとは。


「この調子では常に君が俺の傍にいてくれたら、
君が俺のものだと公言できたら・・
どれほどの幸せを味わえるのか想像がつかないな。
正気でいられる自信がない」

「お・・・大げさです、速水さん」

リンゴのように真っ赤になりながらマヤが呟く。
冗談はよして下さい、と消え入りそうな声で。

それこそ冗談でこんなことを言えはしないのだが・・・
彼女にしてみれば俺が告白したことすら、まだ現実味がないのかもしれない。

「本当だよ、マヤ。
俺はその幸せを手に入れたい。なんとしてでも」

そう、なんとしてもだ。


「・・速水さん」

俺の口調に違和感を感じたのか、マヤの声が硬さを帯びる。
何を言わんとしているのか、多少なりとも察知したらしく
マヤが真剣な面持ちで俺を見つめた。



避けては通れぬ問題が俺達の間にはあることを
互いに知っているが故に。



<Fin>



あれ・・? 続いてる?
次がエピローグのはずなのに?

・・・すみません、私の予告は信じないでください。
行き当たりばったりなので・・・(;^_^A