波間の夢 2
深い闇の底にあった意識が浅瀬へと浮かぶ。
霞みがかかった意識の中で、まだ眠りから冷め切っていない身体はそのままに、
辺りの気配を押し測った。
静寂の中で僅かに聞こえたのは、隣で横になっている友人の震えるような息遣い。
マヤ・・起きてるのか。
私が目を覚ましたことを知れば、あの子は気を使うことだろう。
さっさと眠り直すか。
そう思って柔らかな沈黙の世界に還ろうとした瞬間、耳に入った言葉。
「速水さん・・」
おそらく無意識に呟いたのだろう。
慌てたようにごそりと布団の動く音が聞こえた。
速水真澄。
長い間、私と苦楽を共にして来た友人の想い人。
彼女によると何年もの間、見守り支えてくれた”足ながおじさん”が彼だという話だ。
罪なことを、と思う。
速水氏はなぜこの子に名乗りもあげず、援助をしてきたのだろう。
マヤが困るようなことがあると、いつも素晴らしいタイミングで救いの手が
差し伸べられてきた。
金持ちの酔狂か気まぐれか?
それにしてはあまりにも行き届いた細やかな配慮が感じられる。
多分、何らかの好意があるのには違いない。
それが何かは私には分からないけれど。
しかし彼は気づいていない。
マヤが足ながおじさんの正体を知り、恋焦がれていることを。
溢れんばかりの想いを胸に秘め、苦しみ続けていることを。
とはいえ、笑えるほど見事な政略結婚を目前にしている男が、
この子の気持ちを知る必要などない。
マヤは普段、私や周りの人間に心配をかけまいと気丈にも明るく振舞っている。
そんな彼女はいつか押し潰されそうで、見ているこちらが怖くなる。
助けてやりたくても、私にはどうすることもできないこの歯がゆさ。
正直なところ、彼女の恋が実るのは難しいだろう。
業界最大手の芸能プロの社長と、身寄りのない少女のような女優。
しかも彼は大財閥の令嬢と婚約しているときた。
万が一、二人が両想いだとしても、その立場やしがらみが
それを容易く許してくれはしない・・
この子の想いが叶う事のない、苦しいだけの恋だというならば。
それならばせめて、眠りの中だけでも彼女に安らぎを。
心にいつも涙を抱えて、それでも健気に笑っているこの子のために。
雁字搦めに縛り付けて離れない苦い想いが、自然に緩やかにほどけていくように。
そして何よりも。
私の大切な、そして大好きなこの子がこの子らしくあるために。
穏やかな眠りを受けられるよう、どうか・・優しい闇で包んで欲しい。
普段、神になど祈らない私の、ただ一つの願い事。
<Fin>
苦しい恋をしている時って日中よりも夜の方が辛いのでは、と思います。
寝床で色々なことを考え、思い出しては心をかき乱されて・・
行き場のない気持ちがぐるぐると回り続けてしまうのではないでしょうか。
私の書く話はどうも麗ちゃんの出番が多いです。
確かに好きなキャラではあるんですけど・・動かしやすいのでしょうか。
速水真澄、月影千草、姫川亜弓、青木麗・・
この人達の誰が欠けても今のマヤちゃんはありえなかったのでは、と思います。
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