波間の夢 3



夢を見た。
あの子が泣いている夢だ。
計算の上で為された口先だけの嘲りの言葉に反応し、
俺を罵倒してボロボロと涙を零していた。
ああ、俺はいつも彼女を苦しめてばかりいるな・・。

泣くことを忘れたこの心は、変わりにどくどくと血を流し続けている。
口にする言葉は鋭い刃となり、あの子を、そして俺自身を深く傷つける。

夢の中でさえ、俺はマヤの涙を拭ってやることもできないのか。
そう思ったあと、フッと自嘲の笑みが出る。

あの子は俺の手など必要としていない。
差し出したところで振り払われてしまうのが関の山だ。
彼女にとって俺は誰よりも憎い男に他ならないのだから。
例え俺がどれほど彼女に焦がれ、求め続けていたとしても。


ベッド横のサイドテーブルにある時計を手に取る。
青い蛍光色の光を放つその針は、
陽が登るにはまだ早い時間であることを指し示していた。
もう一眠りだ。
わざわざ早朝から起きる必要はない。


今日は紫織さんの要望で、午前中は式場で打ち合わせをすることになっている。
ピアノ演奏は何の曲がいいか、テーブルの花は何を置くか、
食事はどのコースにするか・・。

馬鹿馬鹿しい。

実のところ、そんなものはわざわざ俺が出向かずとも秘書にでも行かせるつもりだった。
これは結婚式という名の企業提携の披露目に過ぎないのだから。

おかしなものだ。
復讐のためだった大都の跡取りという立場がいつの間にか俺を縛りつけ、
身動きができないようにしている。
決められたレールの上に乗せられ、前に進むごとに無機質になっていく自分を感じる。

唯一、そんな俺の心を揺さぶるのは11歳も年下のあの娘、マヤ・・
彼女の小さな姿が鮮やかに脳裏に浮かぶ。

マヤ。
マヤ。
マヤっ・・!

届くことのない呼びかけは、それでも俺の中で尽きることなく繰り返される。


せめて今は君を想って眠りの波に身を任せよう。
例え夢で出会えても、不器用な俺はまた君を泣かせることしかできないのかもしれないが。

目を閉じると、俺は滑るように無意識の底へと降りていく。


暗闇の中でぼんやりと何かが浮かびあがる。
波間に揺らめいていたのは、はらはらと涙を流す彼女。


なぜ・・
なぜそんな泣き方をする・・?

いつも噛みつかんばかりに怒り涙を流していた君が、
いつから俺の前でそんな泣き方をするようになったんだ・・?


浮かんだ疑問はそれ以上突き詰める間もなく段々に遠ざかり


なだらかな波に翻弄され


残像さえも残さずに




消えていった・・・



<Fin>




悩める速水さんです。
煮えきりませんね、この人は・・。
紫織さんとマヤの間で精神的に右往左往しています。

消える前にしっかり掴まなきゃダメだろーーっと書きながらツッコんでました(^_^;)