大きくリクライニングさせた座席に身体を任せ、俺は5本目の煙草に手をかける。
車内で喫煙するのを嫌がる人間も多いが俺の車だ、別に構わんだろう。
フッと、これから横のシートに座る予定の女性の顔を思い浮かべる。
あの人のことだ。
車内の臭気に不快感を持ったとしても、いつものあの穏やかな笑顔でこう言うのだろう。
「真澄様、あまりお煙草を召されては身体に毒ですわ」
そして俺も笑顔で答える。
「ええ、あなたにあまり心配をかけるわけにはいきませんからね。
少し控えるように心がけますよ」
フーーッ・・・
細く白い煙がフロントガラスに絡みつく。
茶番だな・・。
上っ面だけをなぞり、滑らかに交わされる会話。
あらかじめ設定された美しい予定調和の中で、俺はこれから生きていくのだろう。
心だけを置き去りにして
それがわかっているのに俺は今、こんな所で何をしているのか。
「来たか・・」
サイドミラーに映ったのは、小柄な身体の黒髪の少女。
腕時計に目をやりながら、小走りに近づいてくる。
少し上気してほのかに赤く染まった頬。
強い意志の力を秘めた大きな瞳。
薄く開かれた蕾のような唇。
それが車窓越しに俺の横を通り過ぎて行った。
彼女はこちらに気づくことなく、真っ直ぐに駅へと向かっていく。
俺の心に一瞬の残像を焼き付けて。
遠ざかる彼女にまるで引き寄せられるように俺は車から降り、
段々に小さくなる姿をただ、見つめた
別に目的があったわけではない。
むろん会おうと思ったわけでもない。
あの子の姿が見たかった。
・・それだけだ。
我ながら可笑しくて笑いが出そうだ。
夢の中でポロポロと静かに涙を流していたマヤ。
その様子が気になって、彼女を一目見るために待っていたのだ。
アパートから駅へと続くこの大通りに車を停めて。
俺がこれから足を向けるのは、違う女性との契りを誓う場所。
そこには誰もが羨むという輝かしい未来とやらが待っているらしい。
それなのにまるで足が縫い付けられたかのように
俺はこの場所から離れることができない。
今にも消えんばかりの君の姿を、この目に少しでも長く留めるために。
マヤ。
君の瞳に俺は映らなくとも、
俺の瞳はこうして君という光を求め続けていくのだろうか。
狂おしいほどの想いを秘めて。
過去も・・・そしてこれからも。
<Fin>
にゃん吉様イラスト
悩める速水さんパート2です。
とりあえずマヤちゃんの泣き顔が気になって行動は起こしてくれました。
自己完結してますけどね(^_^.)
にゃん吉様からイメージイラストを頂いてしまいましたーーーvvv
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