全く、何であと10分早く連絡をくれないんだ!
ぼやきながら朝の街を履き慣れたスニーカーで駆け抜ける。
多分追いつくと思うんだけど。
アパート前の狭い道を左に折れ、駅へと続く大通りに出る。
100mほど先だろうか、まるで学生のような小柄な姿が目に入った。
「いた!」
よし、ラストスパート!
マヤを目指してスピードをあげようとしたその時、
車道に停められていた車から、私の視線の先を遮るかのように男が現れた。
会話らしい会話はしたことがない。
でも昔から知っている男だ。
彼は遠ざかっていく一人の女の後姿を見つめていた。
それ以外の物はまるで存在していないかのように。
ただ、一心に。
見なければ良かった。
見るべきではなかった。
あれほど切ない眼差しであの子を見つめる姿など。
追いたくても追うことができず、ただ拳を硬く握り締めて耐えている姿など。
・・なんてことだ。
お互いに想い合っていたなんて。
あの子の独りよがりの恋情ではなかったなんて。
マヤが初めて舞台に立った日から紫のバラを贈り続けたあの人は
一体いつからあんな風にあの子のことを見ていたんだろう。
係わるべきではない。
速水氏の結婚には企業間の利益が絡んでいる。
当人同士の感情で収まる話ではない。
まして私は第三者に過ぎないのだから。
そう思っているのに、心とは裏腹に足が動く。
駅の方へと視線を向け、ただ立ちすくんでいる男へと向かって。
<Fin>
この独白が誰のものなのか、WEB拍手の感想でも「・・ですよね?」と皆さん当ててくださって
良かったです(*^_^*)
こういう第三者的な見方はガラカメ読者である自分自身と近いので、ついつい感情移入を
してしまいます。
|