本当は問い詰めるつもりなどなかった。
出すぎたことをしているということも、充分過ぎるほどに自覚していた。
だけど、のらりくらりと逃げようとする男を目前にして
私は感情を抑えることができなかった。
「あの子が誰を想っているのか、本当に分からないと言うんですかっ!?」
この場を逃れようとしていた男の表情に変化が表れた。
そう、自覚がないなどとは言わせない。
舞台の上ならともかく、素のマヤはあまりに不器用で
自分の気持ちを隠し切ることなどできるわけがないんだ。
それが見えていないとするならば、問題はマヤではなく速水氏の方にあるはず。
「・・俺にどうしろと?
君は俺に何を望んでいるんだ?」
それを私に聞かれても困る。
決めるのはあなただ。
聡明な彼がそれさえも分からなくなるほど、その心は袋小路にあるのか。
「速水社長、あなたにお願いしたいことがあるのですが」
「・・なんだ」
「先ほど連絡があったのですが、今日は黒沼先生が急な腹痛で
稽古は中止になったということなんです。
私の代わりにマヤに伝えて頂けますか?」
速水氏は一瞬目を見張り、その瞳に迷いの波がよぎる。
まるで彼の中で何かを天秤に掛けるかのように。
「都合がつかなければ構いませんので。
どちらにしても、あの子がスタジオに行けばわかる話ですし」
そう。今日一日、マヤはオフになる。
この後どうするかは彼の判断次第だ。
「それでは失礼します」
逡巡する男に背を向ける。
私は後ろを振り返ることなく、アパートへと向かった。
見上げると、空には清々しいほどの青空が広がっている。
彼がどのような行動をとるのか、私にはわからない。
そしてどのようなことがこれから生じるのかも。
無責任だと人はなじるだろうか?
別にそれでも構わない。
私が望んでいるのは、あの子の幸せなのだから。
<Fin>
速水さんにとっての分岐点です。
マヤの気持ちを否定せずに受け止められるかどうか、彼女を選ぶことができるかどうか、の。
・・・これで紫織さんの待つ結婚式場へ向かったら、大ヒンシュクでしょうねー。
皆さんのコメントが恐ろしいわっ(笑)
麗ちゃんは「お疲れ様」ですね♪
|