君の微笑をこの胸に抱こう 前編







俺は本当に彼女に触れたのだろうか?
あの流れ落ちる艶やかで美しい黒髪に、形良く引き締まった瑞々しい紅の唇に、そしてきめ細 やかなあの透けるような白い肌に・・。



稽古が長引いてすっかり遅くなってしまった。
街灯が点いてからもう数時間が経っているはず。
いつもなら徒歩で駅まで向かうところだけれど、今日はタクシーを呼ぶことにした。
できるだけ彼に会う可能性を無くしたかったから。
最近の彼を見てさえ思うのに、朝、あの人に受けた忠告を考えると、とても一人で歩いて帰る 気にはなれなかった。
思わぬ出費だけどしょうがないわ。
呟きながら一階にある公衆電話へと足を進める。
普段あまり使わないけど、確かあの自販機の後ろにあったはず。

ところが目的の物を見つける前に、私は気がついてしまった。
四角い箱の陰から何かがゆらりと蠢くのを。
長身のそれが誰なのか、見極めるまでもない。
咄嗟に踵を返し、エントランスとは逆方向へ急ぐ。
カツカツカツ・・コツコツコツ・・・。
早く、早く追いつかれる前に。薄暗い廊下の先に、緑色の光が見えた。
あと・・少し。

だけど私はそこに辿り着くことはできなかった。
追ってきた足跡の主に左腕を掴まれ、狭い部屋の中へと押し込まれたのだ。
乱暴に壁に身体を打ち付けられた直後、バンッという大きな音を立てて彼の腕が私を包囲し た。
彼の肩越しに銀色の蛇口が鈍い光を放っている。
給湯室・・こんな時間にこの部屋に来る人はいないだろう。
助けを呼ぶのも難しそうだ。

「そんなに急いでどこへ行くつもりだったんだ?」
少し掠れた低めの声が耳元で囁き、その唇が私の耳たぶを軽く甘噛みした。
ぞくりと背筋に寒気が走る。  
「どこって・・家に帰るに決まっているでしょう」
「わざわざ駅とは逆方向の裏口からか?」
「今日はバスで帰ろうと思ったんです。バス停はこちらの方が近いんですよ?」
こちらの動揺を気取られないよう、笑顔を浮かべて答える。
「バス停か・・」
見透かしたようにクツリと笑うその態度にムッときて、私は声を張り上げた。
「速水さん!悪ふざけはよして、いい加減に離してください!!」
「悪ふざけ?」彼の瞳が私を真正面から捉えた。
「ふざけているように見えるのか、君には?」
端整な彼の顔がゆっくりと近づいてくる。息をつくだけで触れてしまいそうな、距離。
「離す気などない・・」
ねっとりとした蒸気を伴う声が私の拘束を宣言する。

状況を変えようと、彼の頬めがけて振り上げた右手は途中で阻まれてしまった。
彼による手首の拘束によって。
「何度も同じ手が通用すると思うな」
一瞬、唇に暖かな感触が掠めるようによぎり、そしてそれは私の首筋へと移動する。
「速水さんっ!」
抗議の声をあげてもまるで聞こえていないかのように、吐息は下へ下へとなぞられて行く。
急に襟元を引っ張られ、彼の柔らかな癖毛が頬にあたる。
瞬間、痛みを感じるほどの強さで肌を吸われた。
「・・つっ・・!」
残されたのは赤い印。

「証だよ」
俺のものだという・・な。
口の動きだけで語られた言葉にその意味を知る。
廊下から漏れる明かりが彼の顔に陽と陰のコントラストを作り出した。
嫣然と微笑む彼は妖艶なほどに美しくて。
もうこのまま流されてもいいと思ってしまうくらいに。

ダメッ!!
ぎゅっと思い切り目を瞑り、自分の弱さを振り切る。
とにかく逃げなければ。
「離してっ!速水さんのスケベッ!淫乱!セクハラ親父っっ」
「・・っ!セクハラ親父はないだろう!」
思いもしない言葉に唖然としたのか、彼が勢いで言葉を返した。
今のうち!
少し緩んだ腕を振り切って部屋を飛び出し、さっきは届かなかった非常口のドアノブに手をかけ る。
バタンと締めた戸を振り返ることなく、私は外へと駆け出した。


「また・・逃げられたか」自然、大きな溜息が出る。
やりきれない想いを胸に、まとわりつく前髪を掻き揚げた。
焦っている。
焦り過ぎている。
そんなことは嫌というほどよく分かっている。
だが、濁流のように渦を巻くこの熱情は、もう止めることができない。
発端は新春のパーティ会場での俺の失態だった。
前後不覚になるほどに酔いつぶれた俺が翌日に目を覚ましたのは、マヤの部屋のベッドの 上。
俺は服を着ていなかった。それが何を意味するのか。
彼女の名をいくら呼びかけても、マンションの部屋のどこからも返事は返ってこなかった。

俺にとってマヤは神域だった。
軽々しく触れることを自らに禁忌として課すほどに。
それを酒の勢いで、これほど簡単に破ってしまったのだろうか。
その罪悪感と共に込み上がってきたのは溢れんばかりの恍惚感。
俺はどのようにあの子に触れたのか、一体どのように抱いたのか。
あの子は抵抗したのだろうか、泣いたのか、どのように啼いたのか。
なまじ記憶がない分、あらゆる想像が俺の中を駆け巡った。
何も手につかなかった。
俺はマヤに確認することにし、彼女を待ち伏せした。
ダイレクトに問い詰めたところ、返ってきたのは否定の言葉と平手打ちだったのだが。
それが実際にはなかったことだとわかった後でも、火照りは消えなかった。
むしろ、これを現実にしたい、彼女を抱きたいという欲望は強くなるばかりだ。
そう、誰にも奪われはしない。マヤは俺のものだ。
明日こそは、必ず。


・・はぁっ・・
吐いた息が電車の窓に白い跡を残す。
本当によく逃げられたものだわ。
水城さんに言われてはいたけれど・・と午前中のことを思い返す。
私は抗議をするべく大都芸能の秘書室へと赴き、元凶の女性に訴えたのだ。
 
「水城さん!あのギラギラ大魔神をなんとかしてくださいっっ!!」
「あらあら、久しぶりの豆台風のお越しね」
彼女は余裕たっぷりに言葉を返し、私を応接室へと促した。
このとき秘書室に接する部屋の住人が外出していることは確認済み。
だからこそ、大都芸能に来ることができたのだから。
とはいえ内容が内容だけにあまり他の人には聞かれたくないのも事実だった。

「もう、水城さんのせいですよっ!
酔い潰れた速水さんを私のマンションに連れて来たりするから!
あの日から猛追撃が始まってるんですからねっ」
「猛追撃?」彼女が意味ありげな笑みを浮かべて反復する。
「そうです!本当に困っているんですっ。
どこに行っても神出鬼没、朝晩関係なしなんですから!
あの人、本当に社長のお仕事してるんですか!?」
「そうねぇ、最近は直行直帰が多いから時間に余裕があるのかしら?」
にーっこりと貼り付けたような笑顔で彼女は言う。
やっぱりこの人も一枚噛んでるわね、と悟らずにはいられない。
「水城さん、面白がってません?」
「いやぁね、マヤちゃん。それで?何が困っているの」
なんだか話をはぐらかされた気はするけれど、それ以上言っても仕方がない。
とりあえず本題に戻すことにした。
ここ数日の速水さんの行動を説明する。
「とにかく場所も人目も気にしないんですよね。
いきなりの口説きモードで熱い視線で見つめられて。
手を握ったり、肩を抱かれたり・・頬に手をあてて耳元で囁かれたり。
腰に手をかけていきなり抱き寄せられたこともありますし。
もう言いだしたらキリがないです」
一体どうしてこんなことに・・愚痴の一つも出るというもの。

そんな私を見ながら水城さんが問いかけた。
「ねぇ、マヤちゃん。『あの日』って本当に何もなかったの?」
「あるハズないじゃないですかっ」
「どうして?真澄様のこと、嫌いじゃないんでしょう?」
「そ・・そういう問題じゃなくて」
真っ赤になった私に水城さんは諭すように言う。
「もういい加減に素直になったら?
あなた方が両想いだって事はちょっと目の開いた人間なら誰でもわかってることよ。
つまらない意地を張ってないでさっさと一緒になってくれた方が私も助かるわ。
あなたの言動で一喜一憂する真澄様に振り回されないですむもの」
さらりと本音を吐き出す彼女。
でも今回ばかりは簡単に頷くわけにはいかない。

「それにしたって順序というものがあります。
今の速水さんはただの獣ですっ!目の光が違うんだもの!!
そういう見境のない危険な猛獣はきちんと鎖で繋いでおいて欲しいです!」
「でも被害にあう可能性のあるのはあなただけだし、特に問題はないんじゃないかしら」
「水城さんっ・・」
人事とばかりに軽く言ってのける彼女の態度にがっくりと力が抜ける。
「確かに速水さんのことは私なりに想ってますけど・・
でもこの長い付き合いの中で育ててきた関係を、こんな一時的な激情で終結したくないんで す。
ましてお酒の勢いで抱かれるために、この気持ちをずっと抱えていたわけではないですから」

一時的というよりは・・むしろ長年の想いを押さえ続けてきた歪みの結果なのでしょうけど。
水城さんが呟いて、苦笑いをしながら肩を竦める。
「あなたの気持ちはわかったわ。そういうことなら今日からは更に気をつけなさい」
彼女は一冊の雑誌を取り出して私の手に預けた。
「なんですか、これ?」
「今日発売の週刊誌よ」
付箋のあるページを開いてみると「北島マヤ熱愛発覚!」というありきたりの見出しがつけられ ていた。
「身に覚えはないですよ?」
いつものガセネタ、そんなことは一目瞭然のはず。
「そうでしょうね。でも問題はその写真なのよ」

やられた!思わず唇を噛む。
そこに映っていたのは私とある男優とが抱き合っているかのような姿。
この状況には確かに・・覚えがあった。
「これは私が転んだのをこの人が支えてくれただけです。
それ以上の何物でもありません」  
あの時、おかしいと感じてはいたのだ。
足を引っ掛けられて、あっと思う間もなくバランスを崩した身体をこの男が受け止めたのだ。
その一瞬を写真に撮られるなんてあまりにタイミングが良すぎる。
おそらくはスキャンダル目当てで仕組まれたのだろう。
ルックス頼りの、演技などまるでできないこの俳優に。

そうね、と水城さんが頷く。
「でもこれが事実であるかどうかは関係ないわ。
どういう理由にせよ、今の真澄様には自分以外の男があなたに触れるなど耐えられないはず よ」

背中に冷や汗が流れた。
これまででさえあの燃えるような眼差しには、ともすれば暴走しそうな熱情を感じていた。
それが嫉妬と独占欲に駆られたとしたら・・どうなるのだろう?
「流されたくないのなら、気をつけることね」
水城さんの言葉がどこか遠くから聞こえるような気がした。

電車が駅に着き、開いたドアから夜気の風が雪崩れ込む。
とにかく、今のあの人に捕まるのはごめんだわ。
まばらに下車する人々に混じってホームに降りた私は、明日はどうするか対策を講じることにし た。


室内には張り詰めた、心地の良い緊張感が漂っていた。
大舞台に挑む出演者達の意気込みの表れだろう。
その中心にいるはずの女優を探し、俺はこの場を統べる演出家へ挨拶がてらに話しかけた。

「え?、もう帰ったんですか!?」
「ああ、ちょっと遅かったな、若旦那」
今日こそはマヤを捕まえようと思った俺は、直接スタジオの稽古場へと足を向けたのだ。
しかし彼女の姿はもう既になかった。
「まだ稽古は終わってないでしょう」
周りを見渡しても他のメンバーは揃っており、公演に向けての準備に余念がない。
あの演劇バカとも言えるマヤが人より早く帰宅するなどとは考えられなかった。
「迎えが来たんだよ。あいつの調子は上々だし、たまには早く帰してやってもいいかと思って な」
バリバリと頭を掻きながら言う黒沼さんの言葉が俺の心に引っかかる。
「迎え?誰ですか?」
「ああ、俺は初めて会ったんだが凄い美形だったな。
道を歩けば十人中九人の女が振り向くんじゃないか?なぁ、桜小路」
ニヤニヤと笑って黒沼さんは隣の主演男優に話を振った。
「そうですね。僕もあまり話したことはないですけど、マヤちゃんがとても信頼しているのは
伝わってきますよ」

何を余裕をカマしているんだ、こいつはっ。
微笑みながら話すのは、俺にとってのかつての恋敵だ。
最近はようやくマヤを諦めたのか、恋人がいるとかいう噂も聞こえてくる。
いや、今はそんなことはどうでもいい!
「それでどこへ行ったんでしょうか?」
答えが返ってくるとは思わなかったが、聞かずにはいられなかった。
「ああ、食事に行くとか言ってたぞ。今は駅に向かっている最中じゃないか?」
「失礼します!」
俺は挨拶もそこそこに部屋を飛び出した。

駅ならば車を出して駐車場に停めるよりは走ったほうが速い。
俺は必死で駆け出した。
マヤを連れ出したのは一体誰なんだ?まさか件の俳優か?
俺を警戒してマヤは男に迎えに来させたのか!
悔しさと怒りと嫉妬で眩暈がしそうだ。
歩道を背広姿で疾走する俺は、よほど目立つらしく周囲の人間が何事かと振り返る。
だが、そんなことに構ってはいられない。
マヤを捕まえなければ。他の奴に奪われる前に。

前を行く人の群れは、俺にとっては苛立たしいほどの障害物に過ぎない。
何もかもが二人の間を邪魔しているような気にさえなってくる。
人波を掻き分ける動作も焦る気持ちに比例して、だんだん荒っぽくなる。
ドンッ!
カラカラカラ・・カラ・・
「バカ野郎っ!気をつけろ!!」
避けたつもりだったが、前にいた男の肩に当たってしまったようだ。
怒りに満ちた罵声と缶が転がっていく軽い音が鳴り響いたが、俺は振り向かずただひたすらに 走った。
とにかく彼女に追いつかなければ。
「マヤ・・!」
駅はもう目の前に迫っていた。

構内に入ると俺は人混みをすり抜けながら、彼女の姿を捜した。
どこだ、どこにいる?
もう電車に乗ってしまったのか?
見回す俺の視界に一瞬目に入ったのは、柱に背を預けた求め人の姿。
人待ち顔で券売機の方を見ている。こちらには気づかない。

「マヤ!!」俺は叫んで大股で近づき、力任せに彼女の肩を両手で掴む。
「い・・痛っ・・・速水さん!?」
マヤは大きな瞳を更に見開いて俺を見つめた。
「どういうことなんだ?」声が意図せずに低くなる。
彼女に対する怒りを抑えることができない。
「そんなに俺から逃げたいのか、君は。俺から逃げられると思っているのか?
他の男に君を渡すなど、できるわけないだろう!」
「速水さん?ちょっと落ち着いてっ」
「落ち着けるわけがないだろう、マヤっ!!
俺がどれほど君を想っているのか、君には分からないのか!?」
「分かりませんっ!そんな一方的に押し付けるような想いなんかっ!」
「分からなければ分かるようにしてやろうか?」
激情のままに繰り出される言葉を俺は止めることができなかった。
また、止めるつもりもなかった。マヤの抵抗など捻じ伏せればいい。


「なんだ、あの騒ぎは?」
マヤを待たせて切符を買いに行っている間に何事かあったようだ。
男の怒声が響いている。そしてその男の影にいるのは・・。
考えたくない状況を目の当たりにして思わず片手で額を押さえた。
何をやっているんだ、あの二人は。
背が高く、整った容姿の人目を惹く男。
その男に「マヤ」と呼ばれている女。
いくら彼女が普段は地味だとはいえ、あれだけ名前を連呼されれば誰もが気づくというものだろ う。
それが北島マヤという女優だということに。
全く悪めだちもいいところだ。
現に視線が集まり、円を描くようにしてギャラリーができ始めている。
あちらこちらで様々な憶測が飛び交っていた。
「止めに行くしかないんだろうな。・・あまり気乗りがしないけれど」
ここで間に入ったら、見物人は三角関係の縺れだと思うに違いない。
ハァッと大きな溜息をついて、円の中心へと足を向けた。


問い詰める俺に、マヤが返すのは否定か拒否の言葉ばかりだ。
・・いや、俺は今更彼女の意思など欲してはいない。
やるべきことは決まっていた。
二度とマヤを手離さないということ。
それが例え力づくになっても。
遠巻きに見るギャラリーの中で、一人こちらに向かってくる気配が感じられた。
マヤの連れか?
この状況で近寄って来れるとはいい度胸だ。
命が惜しくはないらしい。

強心の主は憤りを交えた声で俺に言葉を放った。
「何をやっているんですか、こんなところで!」
側に立ち声をかけてきた相手・・その顔を俺はまじまじと見つめた。
「青木君・・?」
それは見知った顔だった。
中性的な魅力を備えた、マヤにとっては姉のような女性。
「マヤを迎えに来たのは君だったのか?」
「そうですよ」呆れたように彼女は言う。
予想外の人物の登場に気が抜けた俺の頬に、パチンと軽く何かが触れる。
そこにはマヤの右手が張り付いていた。
「目が覚めましたか?速水さん」
「あ・・ああ」
上目遣いで睨む彼女に、俺は多少うろたえながらも頷いた。
「とにかくここから出ましょう!恥ずかしいったらありゃしない!」
青木君が俺とマヤの腕を引っ張って外へと連れ出す。
タクシー乗り場へ行くと、先頭に止まっている車へと乗り込んだ。
「速水社長、もちろんタクシー代くらいは奢ってくれますよね?」
不機嫌さを隠さずに言う彼女に肯定の意を示した。

この現状ではさすがに俺もマヤを拘束することは憚られた。
車がスタジオの駐車場に置いてあるので、俺だけそこでタクシーを降りることにする。
助手席で運転手に行き先を説明した。
「今日は工事をしているから、この方向は道路が混みますよ」
構わない旨を告げ深々と腰掛けると、俺は自分自身のあまりの空回り振りに可笑しくなってき た。
どうやら黒沼さんと桜小路に遊ばれたようだ。
我ながら呆れたものだ、全く。
マヤを手に入れようと必死になって、まともに物が見えなくなっているらしい。
ミラー越しに彼女を覗き見ると、青木君になにやら耳打ちをしていた。
そんな仕草でさえ何やら妬けてしまう。
「その角で停めてください」マヤがドライバーに話しかけた。
なんだ?
疑問の言葉を挟む間もなく、マヤは一人で車から降りて雑踏の中を駆けて行く。
その小さな身体は人混みに紛れて、俺の視界から儚く消えた。
再び走り出す車内で・・俺は愕然としていた。

例え他に人がいても、この狭い空間の中で俺と一緒にいるのは嫌というわけか。
完全に嫌われたな・・自業自得だ。
自嘲の笑みが漏れる。
汚れきった深淵の泥沼の中。そこで生きている俺を照らすただ一つの光、マヤ。
業の深い俺が彼女を手に入れようとするのは、身に過ぎる望みということか。
それでも・・俺はマヤを諦めることなどできないだろう。
救いようがない、本当に・・・